会員 峯田幹大(第1期既習)

1 はじめに

 私は,平成21年4月から平成24年9月末まで,岩手県久慈市に開設された公設事務所である久慈ひまわり基金法律事務所の初代所長を務めました。その経験についてご紹介します。

2 公設事務所を希望した理由

 ひまわり基金法律事務所の制度は,弁護士会費から積み立てられた「ひまわり基金」から事務所開設資金等を援助することにより,弁護士へのアクセスが悪い司法過疎地にも法律事務所が開設され継続的に経営できるようバックアップし,どこに住む人にとっても弁護士を利用できるようにするということを目的とする制度です。

 私は,若いうちに1人で事務所を立ち上げる経験をすることができ更にそれが地域への貢献に繋がるという点に大きな関心がありました。所長には任期があるため,任期満了時にはその後の身の振り方を考えることができるのも制度の大きなメリットの一つでした。そういったこともあり,私は司法修習中からひまわり基金法律事務所制度に応募することを考えていました。

3 久慈市での業務
久慈秋祭りの山車

久慈秋祭りの山車

 開設してしばらくして非常に忙しい日々が始まりました。開設当初は電話が鳴ることが嬉しかったのを記憶していますが,すぐにそうも言っていられなくなりました。
岩手県久慈市は,岩手県の北東部沿岸に位置する漁業の街です。久慈市内には久慈簡易裁判所があり(原則週1日開廷の地方裁判所は車で1時間かかります。),その久慈簡易裁判所の管内人口は約6万人です。そこに弁護士1人ということもあって,相談予約が途切れることはありませんでした。任期中の新規相談件数から算出すると,全ての日に新規相談の受付をしていたわけではないですが,任期中の平日は毎日必ず1件以上新規の相談が入っていた計算になります。

所得水準が低いためか,相談内容の4割近くは負債の整理の相談でした。低所得からくるお金の問題は夫婦関係がこじれる原因になることも多く,離婚の相談も途切れませんでした。他にも色々な相談が持ち込まれ,破産管財人,相続財産管理人,後見人や保佐人といった裁判所依頼事件も多く担当することになりました。

4 東日本大震災

 平成23年3月11日の午後,私の携帯電話が大きな警告音を鳴らしたかと思うとしばらくして非常に強い揺れを感じました。

 すぐに津波の危険性を伝えるサイレンが鳴り響きました。津波の知識のない私は事務員2人から高台へ避難すべきかもしれないという言葉を聞き,どうなるのかもわからないまますぐに事務所を閉めて事務員2人を避難させ,自分も妻を連れて内陸方面へ向かって車を走らせました。

 そのとき,久慈港には気象庁の記録上8.6mの津波が押し寄せたようです。しかし,久慈市には大きな川が2本あるからか,市内中心部の被害は大きくなく,私も事務所や自宅アパートの浸水は免れました。

5 震災関連業務

 津波被害を受けた岩手県沿岸地域はほぼ司法過疎地であるため,私と同じくひまわり基金法律事務所の弁護士が中心でした。そういった仲間の弁護士と協力し合いながら,活動を再開しました。

 まずは,仮設住宅を回り,被災者生活再建支援法に基づく支援金や災害弔慰金等の情報提供を始めました。こういった初期段階での被災地の弁護士としての仕事は,法律相談業務ではなく,専ら情報提供業務による不安の除去でした。当然私も震災関連の制度や情報を事前に知っていたわけではありません。ここで,これまで触れたこともなかった制度等の知識及び情報を届けてくれたのは,全国の色々な弁護士のネットワークでした。特に阪神大震災や新潟県中越沖地震の経験や知識を多くの弁護士から提供してもらい,本当に助かりました。

 しばらくすると,情報提供業務から法律相談業務にシフトしていきます。久慈地域では原子力発電所の事故の相談はあまりなく,多くは津波で流された自宅建物や自動車のローンの問題でした(これについては,事務員や盛岡の弁護士ともに市内のスーパーの入口に立ち,被災ローン減免制度(私的整理ガイドライン)制定に繋がる署名集めをしたこともありました。後に制定された被災ローン減免制度における申出支援弁護士を担当したりすることなども,震災関連業務の1つでした。)。震災関連の被災者の相談は,事務所にいてもほとんど持ち込まれないため,仮設住宅集会場や役所会議室などで法律相談を実施していました。

6 現在

 平成24年9月,私は後任の弁護士に引継をし,久慈ひまわり基金法律事務所の所長を退任しました。3年6か月間の任期中は自分なりに考えて事件対応,事務所経営をしてきたつもりなので,弁護士としての仕事の仕方をある程度固めることができつつあったかもしれません。しかし,今度はその自分の考えを他の弁護士にぶつけ,更に切磋琢磨できる環境に身を置きたいと考えるようになりました。そこで,活動分野の異なる色々な弁護士が所属する紀尾井町法律事務所に復帰させてもらうことにしたのです。

 今後も久慈市での経験をいかし,様々な業務に携わることができればと考えています。

みねた・みきひろ
愛知県出身、平成18年3月立命館大学法科大学院卒業
平成21年4月から平成24年9月末まで久慈ひまわり基金法律事務所 所長を経て
現在、紀尾井町法律事務所にて弁護士として執務