会員 永野洋介(第1期既習)

 法テラスから勾留状のコピーを見ると、事案は万引き、少年は15歳無職。1年目の新米にも関わらず、私は生意気にも「よくある」少年事件だと思ってしまった(勾留日が犯行日より20日以上後なのが若干気になったが)。
接見してみると、少年曰く「僕は盗品だと知らなかったんです。友人が盗ったものを盗品と知らずに受け取ってしまいました」。否認事件と思いながらも、この程度の弁解で果たしてどこまで戦えるかな?と落としどころを考える余裕がまだあった。
次に衝撃が待っていた「僕、来月子供が産まれるんすよ」。相手は中学時代の後輩で、1歳下の少女A。「オマエな~」から後が続かない。
気を取り直して少年の家族の連絡先を聞くと少年の家族構成が判ってきた。母と弟、妹、母の内縁の夫(以下「義父」)と言う。)さらに少年の彼女Aが一緒に住んでおり、少年は義父の下で塗装工として働いていた。そして少年の母親は現在Aと一緒に万引きを行った疑いで警察に捕まっているという(Aは釈放された)。
次の日、義父と連絡を取ったが、「少年がやってないというならそれを信じたい」とのこと。しかし、少年を子どもに会わせることを一番に望んでいるため、最大の目標はAが出産するまでに少年の身柄を解放させることとした。難しいのは、少年にとって都合が悪いことに、本件の4ヶ月前に保護観察処分を受けていたことだった。
ところが警察署の少年の様子がおかしい。訳を聞いてみるとヘラヘラしながら「無理矢理警察官に万引きしたと認めさせられた」とのこと。よくよくいきさつを聞いてみると、少年の供述については「嘘だ!」と決めつけた挙げ句「お前らは万引き一家や」等と随分ひどいことを言っている様子である。
一日の仕事で疲れていた私は、警察の捜査方法にも憤ったが、少年の態度にも腹が立った。「何とかしてやるから、お前もしっかりしとけ!父親になるんやろうが!」と怒鳴って面会室から出てきた私に対して、留置管理の警察官が心配そうに「何がありました?」と聞いてきた(この後、留置管理の警察官は少年のことを気にかけてくれるようになり、面会の度にその日の少年の様子を教えてくれるようになった)。言ったからには責任を取らなければならないと、翌日、警察に抗議のFAX、検察官に抗議の電話、裁判所に移送申立と立て続けに行ったところ、少年への取調は事実上行われないようになった。
取調が行われなくなったことを喜んだ少年に懐かれ、色々話していくうちに、少年の以下の問題点が見えてきた。

  1. 年齢に比べて非常に幼い。
  2. 非常に迎合的で意見を変えてしまう。
  3. 自分を客観的に判断できない。
  4. 前日に話した内容を忘れていることがあり、記憶力に問題がある。

少年の私に対する供述もコロコロ変わる、唯一変わらないのは「Aのことは好き、子どもにも会いたい」だけだった(だからといって具体的なプランが少年にあるわけではない)。そして、家裁送致後に開示された証拠を見ていくと、私の中で少年が本件窃盗を共犯者と行ったが、時間の経過と警察の強圧的な取調に対して言い逃れをしているうちに、それを忘れてしまった可能性が高いのではないか、と思えてきた。
そこで少年と義父と相談の上、調査官と面会する前に自白に転じることとした。もっとも少年はかなりあきらめの色が濃く「赤ちゃんに会えないのは悲しい」と嘆くようになり、私はしかりながら励ます毎日であった。調査官と会うと、第一声が「私はこの子が嘘つきだと思うし、少年院に行った方が良いと思う」。私は必死に、少年の特性を訴え、否認したことが本件犯行を反省していないわけではないこと、少年を今帰さないと産まれてくる我が子に一生会えなくなる可能性もあること、父親としての自覚を持つことこそが更生に繋がると訴えた。
調査官はなおも渋ったが、私が少年に10回以上面会したことを聞くと、態度が軟化してきて最終的には、「職業を学ばせる上で少年院送致が相当であると考えるが、少年の様子については注意して見てみます。」と約束してくれた。
そして少年の審判の二日前、ついにAが出産してしまった。もはや待ったなしで少年を再度の保護観察処分にするしかなくなった。ところが審判における裁判官の第一声が「私は、君は少年院に行くべきだと思う」。正しく四面楚歌だったが、祖母が「子どもに名前もまだつけていません、何とか家族の元に返して欲しい」と涙の訴え。少年も責任逃れのような発言も目についたが、私の叱責を受けながら、何とか反省の言葉を述べた。
流れが変わったのは調査官の質問。1週間前に調査官に対して行った少年の発言について聞いたのだが、少年は「そんなことを言ったことは絶対ありません」と何のためらいもなく即答。これを聞いた調査官、突然私の方を見て「思ったよりひどいですね、これ」。調査官が少年の問題点を確信した瞬間・・・だったと思う。
最終的に調査官が進言してくれたのか、裁判官が二日前に産まれてきた子どものことを哀れに思ってくれたのか、再度の保護観察処分となった。産まれてきた子どものために、父親である少年が側にいた方がよいのか、少々疑問ではあるが、少年が父親としての自覚に目覚め、更生していくことを祈るばかりである。

別れ際に「赤ちゃんの写真を送ります」と約束してくれた少年だが、未だに写真は送られてこない。便りのないのはよい便り、と信じたい。

ながの・ようすけ